院内感染対策
2021.4.13 Tue
新型コロナウィルスの感染経路についての再考と対策
新型コロナウィルスの感染経路などについて多くの情報が公表されてきていますが、専門的な言葉が氾濫し、説明内容も混乱しており、そのことが具体的な感染対策のあり方にも悪影響を与えているのではないかと懸念されるところです。
「感染経路、云々」などという言葉を説明するよりも、新型コロナウィルスの移動の仕方(感染・発症の流れ)をしっかり説明する方が分かりやすいのではと考えられます。
今回、新型コロナウィルスの移動の仕方(感染・発症の流れ)の概略を下図のようにまとめてみましたので、以下ご説明致します。その上で、接触感染対策の必要性についても言及したく思います。
第1段階としては、どこかで新型コロナウィルスに人が感染します。
感染の場面としては、いろいろな場所が考えられますが、その場所に感染患者がいるかどうかが、感染の可能性に関係します。なお、新型コロナウィルスは、ウィルスを排出する無症状者が存在するという特徴を持っています。そのため誰が感染しているか、特定できない場合があり、大きな問題となっています。
【対策】
- 一番は外出しないことです。外出する場合は、マスクの装着、外出先かつ帰宅時に手洗い、消毒を徹底することです。
- 感染の有無を確認するためにPCR検査を無料で、簡単に、すぐ出来ることが必要です。
第2段階として、感染した人は、数日後発症し、他者への感染の可能性を持つこととなります。その際の、感染経路は、大声での会話や歌、くしゃみや咳で排出される唾液がほとんどとなります。その唾液飛沫やエアロゾル(粒子の大きさや浮遊の仕方で飛沫と異なる)は、空中を介して近距離の他者へ、呼吸などにより吸収され、感染することとなります。新型コロナウィルスの感染経路は、この経路が主とされています。
【対策】
- 感染が判明した場合は、家族から速やかに隔離することです。軽症者や中等者以上の方の待機施設(医療機関)へ移動しなければなりません。自宅待機は、家族感染の原因、さらには二次的に外部への感染拡大に繋がる可能性がありますため不可です。
- 感染を人の流れから考察すると、感染の終着駅的である家族での感染を感染拡大の原因という説明には違和感を覚えますし、対策的に問題があると考えられます。
- 感染者と知らずに対面しそうな人は、マスクを装着する、距離を置く、手洗い・消毒を実施しなければなりません。
- 食事は外食を避けることが一番です。通勤した際の食事は、弁当持参、テイクアウト、距離を置いての食事、黙食などを採用することです。学校等の給食も弁当などとなっている例も報告されています。
- 場所的には、飛沫やエアロゾルに対する換気(空気の流れの確認)などが当然必要です。
口から排出された飛沫は、飛び散り、落下して、机、椅子、などの表面へ付着します。そして、その場所に手が触れ、さらにその手でドアの取っ手、書類、キーボード、エレベータのボタン、などを触ることで付着・移動していくこととなり、触れた人の口や目などの粘膜から侵入していくこととなります。
一般的にも感染経路が単純でないことは明らかであり(「CDCガイドライン」など)、飛沫やエアロゾル感染だけでなく、接触感染の経路も無視できません。
実際に、新型コロナウィルスについても、病院の受付でファイルに触った手からの感染、コンピュータのキーボードから感染、などの報告がなされています。
付着した場所・部位(素材)での新型コロナウィルスの生存期間も報告されております(下表)。
長期間の生存が確認されたことにより、接触感染の可能性も高くなるのでは懸念されます。
表 素材の違いによる新型コロナウィルスの生存期間
素材 | 新型コロナウィルスの生存期間 | |
---|---|---|
紙やティッシュ | 3時間 | |
皮膚 | 9時間 | |
段ボール | 24時間 | |
布 | 2日間 | ポリコットン:6時間 純綿:24時間 ポリエステル:72時間 |
木材 | 2日間 | |
ステンレス | 2~3日間 | |
プラスチック | 3日間 | |
ガラス | 4日間 | |
マスクの外側 | 7日間 |
※:New England Journal of Medicine.382(2020)などの資料より抜粋
【対策】
- 人における感染対策の一つである手洗い・消毒だけでなく、人の手が触れる環境などの清掃・消毒作業も必要であることが確認されます。
- 手の触れる場所としては、ドアの取っ手、手すり、書類、コンピュータのキーボード、エレベータのボタン、電車のつり革、トイレの便器関係、照明のスイッチ、蛇口、など多数存在しますので、確認が必要です。
以上のように、新型コロナウィルスの移動の仕方をしっかりと認識することで、感染・発症に関係して説明する際の言葉だけでなく、予防対策(どの段階でどのような対策を取るか、など)や治療(予防としてのワクチン接種、治療としての抗ウィルス薬の開発、症状緩和の方法や医薬品の導入、など)のあり方を検討・実施していく上での問題も是正されていくもの考えられます。
さらに、医療機関においては、これまで適切に実施されてきたと推察される感染対策の「標準予防策」(Standard precautions)と「感染経路別予防策」(Transmission-based precautions)の内容を再考するとともに、新型コロナウィルスの特徴に配慮した内容へ変更し、徹底して実施していくことが求められています。
なお、新型コロナウィルスについての情報は日々更新されておりますので、今後異なる内容となる可能性もあります。今後も注視していく予定です。