病院・診療所の経営

救急医療体制についての再考と提案

救急医療体制の問題としては、主に、①救急車の出動件数(患者数)が年々増加していること、②地域の救急車の台数が限られていること、③対応できる病院が見つからず待機している時間が長いこと(拒否され、たらい回しとなり、最悪手遅れとなり亡くなること)などがあげられています。

今回、これらの内容を検討するとともに、今後の救急医療体制について再考し、提案致します。

①救急車の出動件数

全国の救急車の出動件数(消防防災)及び搬送人数は、年々増加傾向にあります。ただし、新型コロナウイルス感染症が拡大した2020年には減少し、2021年には増加傾向を示したものの2019年のレベルには達していません(図-1)。

その要因としては、新型コロナウイルス感染症に対する行動制限、外出が少なくなったことでの交通事故の減少のためではないかと推察されています(図-2)。

なお、「急病」の割合は増加しており、新型コロナウイルス感染症によるものが含まれているものと推察されるものの、症状的には「中等症」の患者が増え、「軽症」者は減少しています(図-3)。

従来言われてきた出動件数の増加の要因である「軽症」者数の減少によって全体的に減少したものを考えられました。

②救急車の台数

全国の救急車の台数は、6,329台(2018年4月1日現在/高規格救急車は6,105台)とされています。その配置基準は、人口15万人以下の市町村では、3万人毎に1台、すなわち5台であり、15万人超える人口については6万人毎に1台を加算することとされています(消防庁「消防力の整備指針」13条 救急自動車/2019年3月改正)。

この配置基準から東京都の救急車の配置台数を計算しますと、1,396万人(2021年)に対して約235台となります。実際配置されているのは、約270台(2021年)とされており、台数的には十分に基準を満たしているにもかかわらず、新型コロナウイルス感染症の拡大時(実際には出動件数が減少している時期)に不足・危機状態との報道となったのはなぜなのか、疑問が残るところです。

その原因として、本当に救急車台数が不足しているためなのか(救急救命士などの人員不足か)、受け入れ病院が不足しているためなのか、連絡方法など運用上の問題なのか、などが考えられます。

以上の検討結果や問題点を踏まえて、救急を要する患者からの連絡方法、救急を受ける側(救急相談窓口)のITなどを利用した機能強化(受付だけでは不可)、救急車の出動と病院の受入れを同時に稼働するシステムの構築、救急車自体の機能強化、などを考察したイメージ図を作成してみました(図-4)。

受け入れ病院は必要情報(医師の専門など)をすべてシステム内に登録し、画面上で病院(空き情報)を選択可能とすることが必要となります。すなわち、受け入れ拒否などの発生しないシステムとなります。この結果、救急車側が病院と受け入れについて電話でのやり取りをすることがなくなり、スムーズに搬送が可能となり、救急車の有効な利用が可能となり、台数不足が軽減されます。

最近、地域の救急医療体制を再検討しようしている自治体(新潟市、熊本市など)が出て来ておりますが、難しい状況のようです。救急告示病院である大規模な病院だけでなく、中小規模の病院の受け入れを適切に配分し、限られた救急車で搬送できるIT(AI)システムの導入が必須と考えます。

【参照】:
1.総務省等の資料より抜粋
2.「先進事例 患者が求める救急クリニックが誕生しました!」病院のみらいWeb(2013年11月12日)
3.「先進事例 救急クリニックのその後」病院のみらいWeb(2017年1月23日)」
4.「「年8,000台以上」、新潟市の新たな救急拠点に2病院が名乗り」医療維新/m3.com(2023年3月28日)
5.「救急活動の現況 令和3年(2021年)」東京消防庁(令和4年刊行)

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